<コラム>海外企業との商談の現場から
ジェトロ滋賀貿易情報センター 所長 岩上勝一
日本貿易振興機構(ジェトロ)は、日本と世界の貿易、投資、企業間の協業・連携などを支援する政府機関です。滋賀県では2017年に事務所を設立しました。
さて、日本では人口減少に伴い、将来の国内市場の縮小を見据えて新たな販売市場を海外に求めたり、長年培ってきた自社の技術を活かして、これまでの取引先とは異なる業種での新たな取引先の開拓や、新たな用途での需要の掘り起こしに向けて研究開発に取り組んだりする動きがみられます。国内外ではデジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)といった分野を新たな成長機会と捉えて、スタートアップ企業や大学・研究機関などと共同研究に取り組む企業もみられます。
■カスタムメイドを実現できる技術力
さて、滋賀県は日本有数の工業県であることをご存じでしょうか?県内総生産に占める製造業の割合は41.8%で全国最多、1事業所当たりの付加価値額でも2位です。たしかに滋賀県内を電車や車で移動していると、大手企業の工場を至る所で見かけます。私たちが販売店などで手にするこうしたメーカーの商品は、高性能・高精度な部品や原材料が使用され、またそれら商品を生産する機械がなければ完成しません。こうした部品、原材料、機械などを供給している多くの中小企業が工業県の基盤を支えているのです。
こうした中小企業の強みは、言うまでもなく、長年に亘り蓄積してきた設計、加工、製作、組み立てなどの技術力です。こうした県内中小企業のホームページを見ると、高精度な加工技術などをベースにして、顧客が求める仕様や条件に合わせてオーダーメイドで受注し、最良な提案することを強調する企業が多いことに気づきます。最終製品に組み込まれる部品は、多くのメーカーが生産・供給する汎用性の高いものだけではなく、最良の品質を担保するために独自に設計・製作されるものが多いからです。滋賀県には世界市場で大きなシェアを占めている精密部品メーカーなども存在しているのです。
■テンポよく交わされる質疑応答や提案に商機
さて、海外で新たな取引先を開拓しようとする場合、展示会や商談会に出展・参加して、商品の品質や特性を理解し、商機を感じてもらう現地代理店を見つけることが現実的です。例えば海外市場で需要が増加している食品分野では、実際に日本で販売している商品を試食・試飲してもらえればどのような味であるかを確認できますし、使用されている原材料や成分などはデータで示すことができるでしょう。一方、産業用機器や部品はどうでしょうか?特定の用途や規格などが定められているPCやプリンターなどのオフィス機器であれば、商品の仕様や性能に関する情報を説明書などで把握できます。私たちが店舗で商品を選ぶときと同じ感覚と言えるかもしれません。ただ、工場などで使用される産業用機器や部品は、前記のとおり顧客が求める仕様や生産ラインなどに応じたカスマイズが求められます。
先日、アジアの環境エンジニアリング会社の経営者などを滋賀県に招聘して、廃水や廃棄物を浄化処理する機器や薬剤などを売り込もうとする日本企業との商談会を開催しました。来日したインド企業の1社は、日本企業の製品の優位性や技術的な特性などの説明をじっくり聞いた後、自社が抱えている顧客やプロジェクトでの実装を想定しながら、機器の設置環境に応じた仕様や設計の変更、副産物やエネルギーの再活用の可能性、実験データの解釈など、矢継ぎ早に日本企業に質問を投げかけました。こうした質疑応答がテンポよく繰り返されることで商談は盛り上がり、インド側から具体的な分野での実装の可能性が提案されたところでタイムアップ。双方で今後もコミュニケーションを維持していくことに合意して商談は終了しました。限られた時間内で、商談相手の製品の技術的特性やニーズのすべてを双方が理解するのは不可能ですが、商談テーブルに着いた日本企業、インド企業の両経営者はいずれも技術者で、製品の性能や付加価値を理解し、その技術を利用して新たなビジネスを生み出す可能性について共感が得られたというのは大きなことです。
双方が日本国内にいる会社であれば再度商談を行うことは容易ですが、相手が海外企業となると物理的に難しくなります。加えて、日本企業の製品は一般的には海外市場における競合品と比べて値段が高く、「高性能・高品質は理解するが、値段が高すぎる」という印象を持たれることが珍しくありません。限られた時間内にこうした共感を得る段階に至ることができたのは、日本国内でさまざまな技術的要求などに応じて磨いてきた設計、加工、製作、組み立てなどの技術の蓄積とそれに裏打ちされた提案力ではないでしょうか。
■おわりに
アジアなど新興市場では、経済発展や産業の高度化の進行、都市人口の増加を受けた高品質なインフラ需要の増加などを背景に、精度の高いレベルの機械や部品が求められるようになっています。汎用品・汎用サービスを越えたところに新たなビジネスの可能性を見出すのは、技術であり、それを支える技術者が果たす役割は大きいと言えるでしょう。
